カンプ問題にハマらない。Webディレクターが注目する建築模型

Webサイト制作をしていく上で困るのがカンプの問題です。
特にコンペ形式の発注では「企画書」「サイトマップ」「見積書」と「トップページのカンプ」が求められる事が多いのではないでしょうか?
コンペのお話はひとまず置いておき、ここではクライアントと意思疎通するためのツールとして建築模型に注目してみたいと思います。

なぜ建築模型か?

建築(特に住宅)を考えた場合、カンプとしてイメージされるのは「建売り」や「モデルハウス」です。
大きさ、素材、空間構成など実際に見て感じることができ、生活をリアルに想像することができます。
建売り住宅では、そのままその場所に住まう事ができるのも大きな魅力です。
Webサイトで言えば「モデルハウス」はフルカンプ、「建売り住宅」は完成品です。

でもオリジナルで建築する場合には、絶対にフルカンプをつくることができません。

コミュニケーションツールとしての建築模型

建築模型とひとくちに言っても大きく2つの種類があります。
一つはリアルにイメージするためのジオラマのようなリアルな模型。
着彩をしたり植栽やテクスチャなど本物と見紛うばかりの模型です。リアルなビジュアルイメージを与えて、購買意欲を掻き立てるようなツールです。リアルなCGパースなども用途としてはこちらと同じです。
もう一つはスチレンボードやスタイロフォームを用いたホワイト模型です。
建築家と一般のクライアントがコミュニケーションする場合、最もネックになるのが共通のツールです。
建築に関わる人間であれば図面やラフなど2次元のツールで意思疎通が可能ですが、一般のクライアントは容易にはいきません。

そこで用いられるのがホワイト模型です。
2次元の情報を3次元に変換してコミュニケーションしていたものを、共通の3次元情報で議論をすることができます。
また覗き込むことで、想像しかできなかった空間をミニチュアながらも、双方が同じものを見て疑似体験する事ができます。
つまり、知識や職能の差を小さくする事ができるツールになります。

初期段階での模型がホワイトである効用

必ずしも模型が「白」であるとは限らないのですが、多くの場合が「白」または「単色」です。
これには、壁や屋根の素材や色といった装飾部分のディテールを極力減らすことによってノイズを排除し、検討段階での目的(ボリュームや空間の検討)に注力させる効果があります。
多くの場合、模型に求められる要素は多くなっていき、全体を俯瞰して見る状態から徐々にズームアップしていきます。
それに伴って、模型のスケールもアップしていきます。
最初は1/600のスケールから始め、1/300、1/100、1/50、1/20・・・といった具合です。
当然、1/50のスケールになる頃には、模型は全体ではなく部分になってきます。
壁や床のテクスチャも表現可能なスケールですので、この段階から素材感や色彩の検討を始める場合もあります。

Webサイト制作において建築模型の役割を果たすツールは何か?

模型で検討するのは建築家やクライアントをはじめ、構造・設備・インテリア・エクステリア…など数多くのステークホルダーが存在します。
例えば空港のような公共建築の場合は、さらにクライアントの他に文化の異なる無数の利用者も存在します。
その数多くのステークホルダーと議論して意見を拡散し、計画を収斂させていくのが模型の役割です。

Webサイト制作においても、多くのステークホルダーが存在します。
不特定多数の人が閲覧するWebサイトは住宅よりも空港の要素が強いと言えます。
可能な限り多くのステークホルダーが関わり、意見を拡散し議論を重ねる。そして収斂させることができる共通のツール。
俯瞰した状態から徐々にスケールアップさせるというベクトルで考えると、何か有効なツールが生まれるのではないでしょうか。

思想地図〈vol.3〉特集・アーキテクチャ (NHKブックス別巻)
東 浩紀, 北田 暁大 日本放送出版協会 2009年5月

アーキテクト2.0 2011年以後の建築家像―藤村龍至/TEAM ROUNDABOUTインタビュー集
藤村 龍至, TEAM ROUNDABOUT 彰国社 2011年11月

コミュニケーションのアーキテクチャを設計する―藤村龍至×山崎亮対談集 (建築文化シナジー)
藤村 龍至, 山崎 亮 彰国社 2012年7月

筆者について

斉藤 徹

Webディレクション/UIデザイン/IA。 企業サイト・採用サイトを中心に制作、企業の広報業務のお手伝いをしています。 学生時代は建築計画/環境行動学/子どもの環境行動/学校建築。 Webと環境行動をテーマに模索中。

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